新事業進出・ものづくり商業サービス補助金は、これまで別々の制度だった「ものづくり補助金」と「新事業進出補助金」が令和8年度に統合されて生まれた、中小企業向けの大型補助金です。革新的な製品・サービスの開発や、新市場への進出、海外展開に必要な設備投資を支援します。
この記事では、第1回公募の公募要領(1.1版)に基づいて、3つの申請枠の違い・補助額・満たすべき要件・注意点を解説します。
2つの補助金が1つに統合された
旧ものづくり補助金(技術力を活かした革新的な製品・サービス開発)と、旧新事業進出補助金(新市場・高付加価値事業への進出)は、単純に1つになったのではなく、それぞれの目的が「枠」として残る形で統合されました。
- 革新的新製品・サービス枠 — 旧ものづくり補助金の考え方を継承。技術力・革新性が評価軸
- 新事業進出枠 — 旧新事業進出補助金の考え方を継承。新市場性・高付加価値化が評価軸
- グローバル枠 — 海外市場開拓(輸出)に向けた国内体制の強化を支援
評価軸が枠ごとに異なるため、どの枠で申請するかによって、書くべき事業計画がまったく変わります。枠選びがこの補助金の最初の分かれ道です。
3つの枠の比較
| 項目 | 革新的新製品・サービス枠 | 新事業進出枠 | グローバル枠 |
|---|---|---|---|
| 対象となる事業 | 革新的な新製品・新サービス開発 | 既存事業と異なる新市場・高付加価値事業への進出 | 海外市場開拓に向けた国内の輸出体制強化 |
| 補助上限額 | 750万〜2,500万円(賃上げ特例時 850万〜3,500万円) | 2,500万〜7,000万円(賃上げ特例時 3,000万〜9,000万円) | 2,500万〜7,000万円(賃上げ特例時 3,000万〜9,000万円) |
| 補助下限額 | 100万円 | 750万円 | 750万円 |
| 補助率 | 中小企業者1/2(※)・小規模事業者、再生事業者2/3 | 中小企業者1/2(※) | 2/3 |
| 実施期間 | 交付決定日から10か月以内(採択発表日から12か月以内) | 交付決定日から14か月以内(採択発表日から16か月以内) | 交付決定日から14か月以内(採択発表日から16か月以内) |
※「地域別最低賃金引上げ特例」(最低賃金近傍の従業員が一定割合いる事業者向けの特例)の適用で、補助率が1/2から2/3に引き上がります。補助上限額を引き上げる「賃上げ特例」(給与総額年平均+6.0%以上等のより高い賃上げが要件・未達の場合は引上げ分の全額返還)とは別の特例です。
補助上限額は従業員数によって4段階に分かれます。新事業進出枠は補助下限額が750万円なので、総投資額がおおよそ1,500万円以上の比較的大きな投資が前提になる点に注意してください。
どの枠に当てはまるか(簡易チャート)
- 海外の「まだ進出していない国・地域」への輸出・販路開拓が目的 → グローバル枠
- 自社にとって新しい製品等で、自社にとって新しい市場に進出する → 新事業進出枠
- 自社の技術力を活かして、新たな価値を提供する新製品・新サービスを開発する → 革新的新製品・サービス枠
- いずれにも当てはまらない(既存事業の増産・設備更新・工程改善にとどまる)→ この補助金の対象外です。省力化投資補助金など他の制度を検討しましょう
新事業進出枠の落とし穴 ―「新市場」はジャンルで判断される
実務上もっとも誤解が多いのがここです。新事業進出枠の「新市場性」は、製品・サービスが属するジャンル・分野そのものの普及度・認知度で判断されます。
たとえば「高級焼肉店」はジャンルとしては既存の「焼肉店」、「◯◯向け就職サービス」はジャンルとしては既存の「就職サービス」と判断されるおそれがあります。修飾語(高級・プレミアム等)や対象の絞り込み(◯◯向け等)を付けても、ジャンルそのものが既存であれば新市場とは認められにくいのが制度の考え方です。性能・サイズ・価格・地域・顧客・業態などの要素で市場を細かく区切って「だから新市場」と主張することもできません(※具体例は制度の考え方に基づく解説例であり、個別の採否を保証するものではありません)。
なお、新市場性の代わりに高付加価値性で申請する選択肢もあります。これは同一ジャンル内での高水準の高付加価値化・高価格化を指します。この場合は、相場価格の調査・利益率の根拠・独自の価値の3点を客観的に示す必要があります。
対象となる事業者
日本国内に本社と補助事業実施場所を持つ中小企業者・小規模事業者などが対象です(資本金または常勤従業員数の業種別基準で判定)。個人事業主も対象になります。一方、財団法人・社団法人・医療法人などは対象外です。
特に注意したいのは、過去に補助金を使った事業者への制限です。
- 16か月ルール — 申請締切日から16か月以内に、事業再構築補助金・新事業進出補助金・ものづくり補助金・本補助金で採択された事業者(または締切日時点で交付決定を受けて実施中の事業者)は申請できません
- 過去3年で2回ルール — 応募申請日から過去3年間に、事業再構築補助金・新事業進出補助金・ものづくり補助金の交付決定を合計2回以上受けた事業者は申請できません(ものづくり補助金・新事業進出補助金の交付決定が1回ある場合も減点対象)
- 課税所得の年平均が15億円を超える中小企業者は対象外です
必ず満たすべき基本要件 ― 返還義務に注意
この補助金は「もらって終わり」ではありません。3〜5年の事業計画で次の要件を満たすことを約束し、達成状況を毎年報告する必要があります。
| 要件 | 内容 | 未達の場合 |
|---|---|---|
| 付加価値額 | 年平均成長率4.0%以上の増加 | ― |
| 賃上げ | 1人あたり給与支給総額を年平均3.5%以上増加 | 未達成率に応じて補助金の返還義務 |
| 事業場内最低賃金 | 地域別最低賃金+30円以上の水準を毎年維持 | 未達の年ごとに返還義務 |
| ワークライフバランス | 一般事業主行動計画の公表(公表に1〜2週間) | ― |
| 子育て等職場環境整備 | 指定の取り組みから1つ選択して実施 | ― |
| 金融機関要件 | 融資を受ける場合は金融機関による確認書 | ― |
賃上げ関連の2つの要件には返還義務があります(付加価値額が増加しておらず、かつ事業計画期間の過半数が営業赤字の場合や、天災など事業者の責めによらない場合は一部免除の規定あり)。また、賃上げ目標値は交付申請時までに従業員へ表明する必要があり、表明しなかった場合は交付決定取消・全額返還となります。地域別最低賃金は毎年改定されるため、それに追随し続ける必要もあります。採択後も5年間・計6回の事業化状況報告が続き、決算書や賃金台帳で達成状況が確認されます。審査での評価を狙って実力以上の高い目標を掲げると、そのまま返還リスクになります。収支計画から積み上げて、達成できる水準で設定することが重要です。
補助対象となる経費
全枠で「機械装置・システム構築費」(単価10万円以上)が中心です(革新枠では必須。新事業進出枠・グローバル枠は建物費でも可)。ほかに技術導入費・外注費・専門家経費・クラウドサービス利用費・原材料費・広告宣伝費(事業計画期間1年あたりの新製品等の売上見込額〔税抜〕の5%が上限)などが対象で、グローバル枠に限り海外旅費・通訳翻訳費も使えます。
一方、土地・不動産、車両、事務用パソコンなどの汎用品、家賃・水道光熱費、自社の人件費などは対象外です。また、導入した設備は「専ら補助事業に使用」する必要があり、既存事業と共用すると補助対象外になります。
実務で必ず引っかかる3つの注意点
- 事前着手の禁止 — 交付決定日より前の発注・契約は一切補助対象外です。「採択されたから発注しよう」も誤りで、交付決定を待つ必要があります
- 相見積の取得 — 発注先1件あたり50万円(税抜)以上は、3者以上の同一条件の見積が必要です
- 支払いは銀行振込のみ — 現金払い・手形・相殺・PayPay等の決済サービスは補助対象になりません
また、補助金は後払いです。設備代金はいったん全額自己負担で支払うため、申請前から金融機関と資金調達の調整をしておきましょう。
第1回公募のスケジュール
| 項目 | 日程 |
|---|---|
| 公募開始 | 令和8年6月29日(月) |
| 申請受付開始 | 令和8年9月30日(水) |
| 申請締切 | 令和8年10月30日(金)18:00厳守 |
| 採択発表 | 令和9年1月頃(予定) |
注意: 2026年7月17日の公募要領改訂(1.1版)で、申請受付・締切が当初予定から約1か月後ろ倒しになりました。改訂前の日程を掲載している解説記事や動画がネット上に多数残っているため、日程は必ず事務局の最新情報で確認してください。
準備には時間がかかります。GビズIDプライムの発行に約1週間、一般事業主行動計画の公表に1〜2週間かかり、手続きの遅れによる期限延長は一切認められません。電子申請の入力自体にも数時間かかるため、締切直前の着手では間に合いません。
まとめ
新事業進出・ものづくり商業サービス補助金は、最大9,000万円という大型の支援が受けられる一方、賃上げ等の要件と返還リスク、5年間の報告義務を伴う「会社全体の経営戦略」が問われる補助金です。「機械を買いたい」から出発するのではなく、「どんな新しい価値を、誰に提供するか」から計画を設計することが採択への近道です。
どの枠で申請すべきか、自社の計画が対象になるかの判断は専門的な検討が必要です。「うちの投資計画はどの枠に当てはまるのか」という段階のご相談も歓迎ですので、お気軽にお問い合わせください。
出典(2026年8月10日確認)
