事業者向けの支援制度を調べていると、「補助金」と「助成金」という2つの言葉に出会います。どちらも原則として返済不要の資金支援ですが、根拠となる法律から違う別の制度です。

違いは審査の有無だけではありません。財源、不正受給をしたときのペナルティ、そして申請を依頼できる専門家まで異なります。この記事では、それぞれの一次資料に基づいて両者の違いを整理します。

なお、この記事では一般に「助成金」と呼ばれることの多い厚生労働省の雇用関係助成金を前提に説明します。制度の名称は統一されておらず、「〇〇助成金」という名前でも審査を伴う補助金型の制度はあるため、実際の判断は制度ごとの要領で確認してください。

違いの全体像

項目 補助金 雇用関係助成金
主な所管 経済産業省・中小企業庁など 厚生労働省
根拠 補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律など 雇用保険法第62条・第63条および同法施行規則
財源 税金(国の予算) 事業主だけが負担する雇用保険料(雇用保険二事業分)
目的 設備投資・販路開拓など事業の取り組み 失業の予防、雇用の安定、職業能力の開発など
審査 事業計画が評価され、不採択がある 支給要件に該当するかの確認(実地調査を含む)
募集 公募期間が限定され、締切がある 通年で受け付けるものが多い(事前の計画届が必要なものもある)
申請期限 公募ごとの締切 各助成金が定める日の翌日から原則2か月以内

補助金とは

補助金は、国の政策目標に沿った事業者の取り組みを支援する制度です。ものづくり補助金、小規模事業者持続化補助金、省力化投資補助金などがこれにあたり、国の補助金は補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律(補助金等適正化法)の枠組みで運用されています。

特徴は次のとおりです。

  • 審査があり、申請しても採択されないことがあります。 事業計画の内容が評価されます
  • 公募期間が限定されています。 締切後の受付は認められません
  • 後払いです。 交付決定前に発注・契約・支払いをした経費は対象外で、経費はいったん自己資金で立て替えます
  • 補助率と補助上限額があります。 対象経費の全額が出るわけではありません

各制度の詳細は小規模事業者持続化補助金省力化投資補助金デジタル化・AI導入補助金で解説しています。

雇用関係助成金とは

雇用関係助成金は、雇用保険法第62条・第63条および同法施行規則に基づく制度です。厚生労働省の雇用関係助成金共通要領は、その趣旨を「失業の予防、雇用状態の是正、雇用機会の増大その他雇用の安定、職業能力の開発や向上を図るため、一定の要件を満たした事業主又は事業主団体に対して、必要な助成を行うもの」と定めています。

対象は、設備投資や販路開拓ではなく雇用や人材育成に関する取り組みです。財源も税金ではなく、雇用保険料のうち事業主だけが負担する雇用保険二事業分が充てられます(雇用保険法第68条第2項、労働保険徴収法第31条第1項第1号)。従業員の給与から天引きされる雇用保険料は、この部分には使われていません。

「要件を満たせば必ずもらえる」は言いすぎです

助成金は事業計画の優劣を競う審査がないため、「要件を満たせば必ず受給できる」と説明されることがあります。方向性としては間違いではありませんが、共通要領には支給しない事業主の要件(不支給要件)が細かく定められています

たとえば次のような場合は支給されません。

  • 支給申請日の属する年度の前年度より前の労働保険料を納付していない事業主
  • 支給申請日の前日から遡って1年間に労働関係法令の違反を行った事業主(労働局・労働基準監督署から送検された場合など)
  • 支給申請書等に事実と異なる記載または証明を行った事業主(労働局長が認めた軽微な誤りは除く)
  • 支給申請日または支給決定日の時点で倒産している事業主(再生手続・更生手続の申立てをした事業主でも、事業活動を継続する見込みがある場合は除く)

また、雇用保険適用事業所の事業主であることが前提で、支給申請日と支給決定日の時点で雇用保険被保険者が在籍している必要があります。「要件を満たせば」の中身が意外に重い、というのが実務の感覚です。

違い①:結果に納得できないときの手段が限られています

見落とされやすいのが、不採択・不支給になったときにどうできるかという点です。

雇用関係助成金について、共通要領は「支給申請者の申し込みに対する行政庁の承諾により成立する贈与契約であり、原則として民法が適用される」としたうえで、支給・不支給の決定や支給決定の取り消しは行政不服審査法上の不服申立ての対象とならないと明記しています。ただし、不正受給を理由とする不支給決定・支給決定取消に対して不服の申し出があった場合には、適宜再調査を行うなど必要な対応を図るとされています。

補助金の側も、争う手段が広いわけではありません。補助金等適正化法は交付決定などを「処分」として扱う規定を置いていますが、同法第24条の2により行政手続法の一部(申請に対する処分・不利益処分の章)が適用除外とされています。同法第25条には不服の申出の規定がありますが、申し出ることができるのは地方公共団体に限られます。さらに同法第5条・第6条は、交付の申請に「契約の申込」を、交付の決定に「契約の承諾の決定」を含むと定めており、補助金の交付が契約の形をとる場合も想定されています。

つまりどちらの制度も、結果に納得できないときに争うことは想定されていません。だからこそ、申請の段階で要件と書類を固めておくことが唯一の対策になります。

違い②:不正受給のペナルティの設計が違います

どちらも不正受給には厳しい措置がありますが、中身がかなり異なります。

項目 補助金 雇用関係助成金
上乗せされる金額 加算金は年10.95% 返還を求めた額の2割に相当する額
延滞金 年10.95% 年3分
その後の制限 交付等停止措置・指名停止措置など 5年間、雇用関係助成金を受けられない
公表 事業者名・代表者名・不正内容 一定の要件に該当する場合に事業主名・代表者および不正に関与した役員の氏名、事業所名、不正の内容など
刑事罰 5年以下の拘禁刑もしくは100万円以下の罰金(併科あり) 刑法上の詐欺罪等に問われ得る

補助金の加算金が年10.95%と高率であるのに対し、助成金は返還額の2割に年3分の延滞金という組み立てです。一方で助成金には、不支給とした日から5年間は助成金を受けられないという強い制限があります。しかもこの制限は、不正に関与した役員が別の会社の役員になっている場合、その会社にも及びます

なお、補助金側の交付等停止措置や公表は適正化法ではなく各補助金の公募要領・交付規程に基づく措置です。また、商工会議所や中小機構などの事務局を通じて交付される補助金は適正化法上の「間接補助金等」にあたるため、加算金も実務上は交付規程に基づいて課されます。補助金側のペナルティの詳細は補助金の不正受給とは?で解説しています。

違い③:依頼できる専門家が違います

実務でもっとも注意していただきたいのがこの点です。

雇用関係助成金は社会保険労務士の独占業務です

社会保険労務士法第2条第1項第1号から第2号までは、労働社会保険諸法令に基づく申請書等の作成、提出手続の代行、事務代理のほか、同法令に基づく帳簿書類の作成などを社労士の業務と定めています。そのうえで同法第27条は、社労士または社労士法人でない者が、他人の求めに応じ報酬を得てこれらを業として行うことを禁じています(他の法律に別段の定めがある場合等を除きます)。違反した場合の罰則は、同法第32条の2第1項第6号により1年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金です。

これは建前ではありません。雇用関係助成金共通要領には、弁護士など適用除外にあたる者以外が支給申請の手続きを行っている場合には社労士法第27条違反の可能性があるとしたうえで、その可能性がある場合は労働局が労働基準監督課へ情報提供し、本省へ報告するという取扱いまで明記されています。

依頼先を誤ったときのリスクは、事業者自身にも及びます。

  • 社労士や代理人が不正受給に関与していた場合、その社労士等は事業主と連帯して請求金を支払う義務を負い、5年間その社労士等が行う申請は受理されず、氏名・事務所の名称・所在地が公表されます
  • 不受理措置を受けている社労士や代理人を通じて申請した事業主は、それ自体が不支給要件に該当します
  • 労働保険事務組合に助成金の申請を委託することはできません。 労働保険料の納付などを委託していても、助成金の手続きは対象外です

補助金の申請支援にも法律の定めがあります

補助金の申請支援については、雇用関係助成金のように一つの資格に限定する定めはありません。ただし無関係というわけではなく、行政書士法第1条の3第1項は、他人の依頼を受け報酬を得て、官公署に提出する書類その他権利義務または事実証明に関する書類を作成することを行政書士の業務と定めています。そして同法第19条第1項は、行政書士または行政書士法人でない者が、名目を問わず報酬を得て業としてこれを行うことを禁じており、違反した場合の罰則は同法第21条の2により1年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金です。

なお、行政書士法第1条の3第2項は、他の法律で制限されている書類の作成はできないと定めています。雇用関係助成金の申請書類を行政書士が作成できないのは、この規定によります。 2つの法律が互いに領域を分けている、という関係です。

そのうえで各補助金の公募要領は、事業計画は申請者自身が作成することを求め、支援を受けた場合は支援者名・報酬額の記載を義務づけています。実際の作業内容とかい離した高額な成功報酬を請求する業者や、支援者名を記載しないよう求める業者への注意も明記されています。

当事務所は行政書士法人のため、補助金についてのご相談を承っています。雇用関係助成金については、社会保険労務士へのご相談をおすすめします。「どちらの制度を使うべきか」という段階のご相談であれば、あわせて整理のお手伝いができます。

補助金と助成金は併用できるのか

同じ支出に二重に支援を受けることはできませんが、目的や対象が異なれば併用できる場合があります

共通要領は、同一の事業主による同一の行為を根拠として、また同一の経費または賃金の支出について、同時に2つ以上の助成金を支給してはならないと定めています。そのうえで、助成金以外の補助金等を受給している場合については、補助金等と助成金の趣旨・目的・助成内容等が明らかに異なる場合、または次のいずれにも該当する場合には併給調整を行わないとしています。

  • 助成金と財源が異なるものであること
  • 補助金等が助成金との調整を予定しておらず、併給を認めていること
  • 重複して助成を受けることが明確であって、合算した額が自ら負担した経費や賃金の額を超えることが見込まれるものでないこと

「補助金は税金、助成金は雇用保険料だから財源は常に異なる」と考えるのは早計です。雇用保険二事業を財源とする事業もあるため、両方の活用を考えている場合は、事前にそれぞれの事務局に確認することをおすすめします。補助金側の対象経費の考え方は補助金の対象経費とは?もご覧ください。

どちらを検討すべきか

目的から考えると整理しやすくなります。

補助金が向いているケース

  • 設備を導入したい、販路を広げたい、新しい事業に挑戦したい
  • まとまった投資を計画しており、計画書を作る時間を確保できる
  • 採択されない可能性を踏まえた資金計画を立てられる

助成金が向いているケース

  • 人を雇いたい、従業員の待遇や労働環境を改善したい、人材育成に取り組みたい
  • 雇用保険の適用事業所であり、労働保険料の納付や労働関係法令の順守ができている
  • 就業規則や賃金台帳などの労務管理の書類が整っている

まとめ

補助金と助成金は、税金を財源に事業の取り組みを審査で選ぶ制度か、事業主が負担する雇用保険料を財源に雇用に関する要件を満たした事業主を支援する制度か、という違いがあります。不正受給時のペナルティの設計も、依頼できる専門家も別のものです。

そしてどちらも、結果に納得できないときに争う手段は用意されていません。「返済不要のお金」という共通点だけで同じものと考えず、自社が取り組みたいことがどちらの目的に合っているかを見極めたうえで、申請前の準備に時間をかけることが結局は近道になります。

補助金の活用でお悩みの際は、お気軽にお問い合わせください。


出典(2026年8月11日確認)