補助金の不正受給と聞くと、「実態のない事業をでっち上げて国からお金を騙し取る」といった悪質なケースを思い浮かべる方が多いと思います。しかし実務でより多いのは、制度のルールを正確に理解していなかったために、結果として不正と判断されてしまうケースです。

補助金は税金を原資とする公的資金であるため、返還のルールや罰則が法律で明確に定められています。この記事では、不正受給と判断される場面と、実際に科されるペナルティを、根拠となる条文に基づいて解説します。

補助金の不正受給とは

国の補助金には、補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律(昭和30年法律第179号。以下「補助金等適正化法」)というルールを定めた法律があります。ものづくり補助金、小規模事業者持続化補助金、省力化投資補助金など、国の補助金はこの法律の枠組みの中で運用されています。

同法第11条は、補助事業者に対して次の2つを求めています。

  1. 法令や交付決定の内容・条件に従い、善良な管理者の注意をもって補助事業を行うこと
  2. 補助金を他の用途に使用してはならないこと

つまり不正受給とは、「嘘をついてお金を受け取ること」だけを指すのではありません。受け取ったあとの使い方や報告の内容がルールから外れることも含む、幅の広い概念だと理解しておく必要があります。

なお、要件を達成できずに補助金の返還を求められるケース(省力化投資補助金の賃上げ要件など)は、不正受給とは性質が異なります。こちらは計画未達に伴う返還であり、詳しくは省力化投資補助金とは?で解説しています。

不正受給と判断される主なケース

虚偽の申請・経費の水増し

実際には行っていない取り組みを行ったように装う、実際より高い金額で経費を計上する、といった行為です。もっとも典型的な不正受給にあたります。

キャッシュバック・キックバック

販売業者から補助事業者へ、購入額の一部が実質的に還流する取引です。ポイントやクーポンの発行、購入後の払い戻し、値引き分を証憑に反映しないといった形をとります。

これは各補助金の公募要領でも明確に禁止されています。証憑に記載された金額と実際に支払われた金額が一致しない状態になるため、「自己負担分を安くしてもらった」という感覚で応じてしまうと、補助金交付の目的に反する行為として扱われます。事業者側に悪意がなくても問題になりやすい類型です。

交付決定前の発注を隠す(事前着手)

補助金は原則として交付決定日より前に発注・契約・支払いをした経費は対象外です。この点を知らずに先に発注してしまい、後から日付を調整した見積書や請求書を提出する——これは書類の偽造にあたり、取引先も巻き込む重大な問題になります。

「先に動いてしまった」場合の正しい対応は、書類を作り直すことではなく、事務局に相談してその経費を対象から外すことです。

相見積もりの偽装

多くの補助金では、一定額以上の発注について2者以上からの見積もりを求めています。実際には1社しか検討していないのに、形式だけ整えるために知り合いの会社に高い見積書を作ってもらうといった行為は、価格の妥当性を偽る不正にあたります。

目的外使用・無断の財産処分

補助金で取得した財産は、承認を受けずに、補助金の交付の目的に反して使用・譲渡・交換・貸付け・担保提供をしてはならないとされています(補助金等適正化法第22条)。各補助金の交付規程・公募要領では、廃棄もこの処分に含めて事前承認の対象としています。

この制限が続く期間には、減価償却資産の耐用年数等に関する省令が準用されます。事業計画期間が終わったあとでも、法定耐用年数を経過するまでは処分の制限が続く点に注意が必要です。

「補助金で買った機械を使わなくなったので売った」「知り合いの会社に貸した」といった行為も、承認がなければ違反になります。

その他

  • 他の補助金との重複受給(同じ経費に複数の補助金を受ける)
  • 企業実態の偽装(従業員数・資本金・事業実態を偽る)
  • 事業者本人以外が主体となって申請手続きを行うこと
  • 実績報告での虚偽報告、未納品・未実施のまま報告すること

対象経費の基本的な考え方は補助金の対象経費とは?共通する考え方を解説もあわせてご覧ください。

不正受給のペナルティ

補助金等適正化法には、次のような措置と罰則が定められています。

条文 内容
第17条 交付決定の全部または一部の取消
第18条 すでに交付された補助金の返還命令
第19条第1項 加算金の納付(年10.95%)
第19条第2項 延滞金の納付(年10.95%)
第20条 同種の事業に対する他の補助金の交付の一時停止・相殺
第21条 国税滞納処分の例による徴収

このうち第18条の返還命令は「命じなければならない」と定められた義務であり、第17条の取消や第20条の一時停止・相殺は「できる」という裁量規定です。つまり、交付決定が取り消された場合、すでに受け取った補助金の返還は避けられません。

罰則は次のとおりです。

条文 行為 罰則
第29条 偽りその他不正の手段により補助金の交付を受けた 5年以下の拘禁刑もしくは100万円以下の罰金(併科あり)
第30条 補助金を他の用途に使用した 3年以下の拘禁刑もしくは50万円以下の罰金(併科あり)
第31条 実績報告をしない、立入検査を拒む、虚偽の答弁をする 3万円以下の罰金

さらに第32条には両罰規定があり、法人の代表者や従業員が業務に関して違反行為をしたときは、行為者本人が罰せられるほか、法人に対しても罰金刑が科されます

悪質なケースでは、これらに加えて刑法の詐欺罪(第246条・10年以下の拘禁刑)に問われる可能性もあります。

加算金の重さ

見落とされやすいのが加算金です。交付決定が取り消されて返還を命じられた場合、補助金を受領した日から納付の日までの日数に応じて計算した加算金を、国に納付しなければなりません。その割合は年10.95%と高い水準です。

たとえば500万円の補助金を受け取った1年後に返還を命じられた場合、単純計算で約54万7,500円の加算金が上乗せされます。納期日までに納付しなければ、さらに年10.95%の延滞金がかかります。なお、加算金・延滞金の具体的な計算方法は政令に委ねられているため、実際の額は施行令の定めにより算出されます。

しかも、これらは国税滞納処分の例により徴収することができ、先取特権の順位は国税・地方税に次ぐものとされています。「返せと言われても払えない」では済まない仕組みになっているということです。

やむを得ない事情があると認められる場合には加算金・延滞金の全部または一部が免除される規定もありますが、資金繰りが苦しいといった事情が当然に認められるものではありません。

事業者名の公表と、その後の申請への影響

金銭的なペナルティ以上に事業への影響が大きいのが、公表その後の補助金申請への制限です。

各補助金の公募要領では、不正が判明した場合に事業者名・代表者名を含む不正内容を公表することが定められています。補助金によっては、国・地方公共団体・警察等の関係機関への通報を行うことが示されています。

その後の申請についても制限があります。

  • 虚偽の内容で申請した場合、次回以降の公募に申請できなくなることが公募要領に明記されている補助金があります
  • 経済産業省や中小機構から補助金交付等停止措置または指名停止措置を受けている事業者は、その補助金の申請対象外とされています。同様の規定を置く補助金は複数あります
  • 支援者側にも影響が及びます。事業計画書の作成支援者が他社と同一・酷似した内容の申請を主導した場合、次回以降の公募でその支援者が関与した申請を受け付けられない可能性がある、とされています
  • 販売事業者と共同で申請する補助金では、不当な申請に関わった販売事業者の登録が取り消されることがあります

つまり、一度の不正が「その補助金を返す」だけで終わらず、将来にわたって公的支援を受けられなくなるリスクにつながります。

「うっかり」で不正になりやすい3つの落とし穴

① 交付決定を待たずに動いてしまう

もっとも多い落とし穴です。採択通知が届いた時点で発注してしまうケースもありますが、採択と交付決定は別の手続きです(補助金によっては採択と同時に交付決定が行われるものもあります)。いずれの場合も、補助金の対象になるのは交付決定日以降の発注・契約と、補助事業実施期間内に完了した支払いに限られます。設備の納期が気になっても、まず交付決定を待つ、あるいは事務局に確認するのが原則です。

② 支援業者に任せきりにする

外部の支援を受けること自体は問題ありません。ただし各補助金の公募要領では、事業計画は申請者自身が作成することが求められ、支援を受けた場合は支援者名・報酬額・契約期間を申請時に記載する義務が定められています。記載がないことが判明した場合、申請にかかる虚偽として不採択や採択決定の取消などの対象になります。

あわせて、次のような点にも注意が必要です。

  • GビズIDのアカウントやパスワードを第三者に開示することは、GビズIDの利用規約に反する行為です。あわせて、GビズIDを他者に貸し出す、他者が取得したGビズIDを使って申請するといった行為は、補助事業の遂行に主体的でないとみなされ、補助対象外となることがあります
  • 実際の作業内容とかい離した高額な成功報酬を請求する業者への注意が、公募要領にも明記されています
  • 他社と同一または酷似した内容の事業計画で申請した場合、次回以降の公募に申請できなくなることがあります

内容を理解せずに提出した書類であっても、責任を負うのは申請した事業者自身です。

③ 補助事業が終わったあとの管理を忘れる

補助金は入金されて終わりではありません。処分制限期間中の財産管理、毎年の効果報告、帳簿書類の保存が続きます。帳簿や証憑は、補助事業が完了した日の属する年度の終了後5年間の保存が義務とされており(定め方は補助金によって異なります)、この間に会計検査院の実地検査や事務局の立入検査が入ることがあります。

補助金等適正化法第23条は、国(各省各庁の長)に対し、報告を求め、その職員に事業所へ立ち入って帳簿書類を検査させ、関係者に質問させる権限を認めています。実務ではこれに加えて、交付規程・公募要領に基づき中小機構や事務局が立入調査を行い、会計検査院の実地検査の対象になることもあります。取引先に対して調査が行われることもあるため、書類だけを整えて実態が伴わない状態は、時間が経ってから発覚します。

なお、この立入検査の権限は犯罪捜査のために認められたものではないと条文に明記されています(第23条第3項)。検査への協力と刑事手続は別のものだと理解しておくとよいでしょう。

不正を疑われないための備え

  • 公募要領と交付規程を最新版で確認する(要領は改訂されます)
  • 判断に迷う経費や手続きは、自己判断せず事務局に確認する
  • 発注書・契約書・納品書・請求書・振込記録を、日付の流れが説明できる形で保管する
  • 実績報告は、実際に行った内容と一致させる。計画どおりにいかなかった場合は、事前に変更承認の手続きを取る
  • 「補助金が通りやすくなる」といった提案を受けたときは、その手法が公募要領に反していないかを確認する

助成金・給付金は補助金とは別の制度で、返還や加算金のルールも異なる場合があります。制度の違いは補助金と助成金の違いをご覧ください。

まとめ

補助金の不正受給は、交付決定の取消と返還だけでなく、年10.95%の加算金、事業者名の公表、その後の申請制限、そして刑事罰にまで及ぶ可能性があります。両罰規定により法人自体も罰金の対象になります。

一方で、これらのルールは複雑ではあっても不明確ではありません。交付決定前に動かない、書類と実態を一致させる、迷ったら確認する——この3点を守れば、通常の事業活動の範囲で十分に対応できます。

「この経費は対象になるのか」「先に発注してしまったがどうすべきか」といったご相談も歓迎です。お気軽にお問い合わせください。


出典(2026年8月10日確認)