デジタル化・AI導入補助金は、中小企業・小規模事業者がAIを含むITツールを導入して生産性を高める取り組みを支援する補助金です。令和7年度補正予算事業から、それまでのIT導入補助金という名称が変更されました。制度としては従来のIT導入補助金の後継にあたります。

会計・受発注・在庫管理などのソフトウェアから、インボイス対応、サイバーセキュリティ対策まで、5つの申請枠が用意されています。この記事では、デジタル化・AI導入補助金2026の公募要領に基づいて、枠ごとの補助額と申請要件を解説します。

デジタル化・AI導入補助金とは

公募要領では、この補助金の目的を「中小企業・小規模事業者等が今後複数年にわたり相次いで直面する制度変更(働き方改革、被用者保険の適用拡大、賃上げ、インボイスの導入)等に対応するため、生産性向上に資するITツールを導入するための経費の一部を補助する」ことと説明しています。

この補助金の最大の特徴は、自由に好きなツールを買って申請する制度ではない点です。

  • 導入できるのは、あらかじめ事務局に登録されたITツールだけです
  • 申請は、事務局に登録された「IT導入支援事業者」と共同事業体を組んで行います
  • 補助金は事務局から補助事業者(申請した中小企業等)に直接支払われます

つまり、まず対象ツールと支援事業者を探すことが出発点になります。導入したいツールが決まっていても、それが登録されていなければこの補助金は使えません。

なお、IT導入支援事業者として登録している(または登録しようとする)事業者は、補助事業者として申請することはできません。

5つの申請枠と補助額

枠・類型 補助額 補助率
通常枠 5万円〜150万円未満(1プロセス以上)/150万円〜450万円以下(4プロセス以上) 1/2以内(要件を満たす場合は2/3以内)
インボイス枠(インボイス対応類型) ITツールは350万円まで(下限なし)。PC・タブレット等は10万円まで、レジ・券売機は20万円まで ITツールのうち50万円までの部分は3/4以内(小規模事業者は4/5以内)、50万円超〜350万円の部分は2/3以内。ハードウェアは1/2以内
インボイス枠(電子取引類型) 350万円まで(下限なし) 中小企業・小規模事業者等は2/3以内、その他の事業者等は1/2以内
セキュリティ対策推進枠 5万円〜150万円 中小企業は1/2以内、小規模事業者は2/3以内
複数者連携デジタル化・AI導入枠 基盤導入経費と消費動向等分析経費をあわせて3,000万円まで(消費動向等分析経費は50万円×グループ構成員数)。これとは別に、とりまとめの事務費・外部専門家謝金などの「その他経費」が200万円まで 基盤導入経費はインボイス対応類型と同じ(50万円以下の部分は3/4以内・小規模事業者は4/5以内、50万円超は2/3以内)。消費動向等分析経費とその他経費は2/3以内

インボイス対応類型で気をつけたいのは、350万円という上限は誰でも使えるわけではないという点です。会計・受発注・決済の機能を1つしか持たないソフトウェアの場合、補助上限額は50万円にとどまります。350万円まで申請できるのは、これらを2機能以上持つソフトウェアを導入する場合です。

もっとも利用されるのが通常枠です。インボイス対応のソフトウェアを導入する場合は補助率が3/4(小規模事業者は4/5)まで上がるインボイス枠のほうが有利になることもあるため、導入するツールの機能に応じて枠を選ぶことになります。

セキュリティ対策推進枠は、独立行政法人情報処理推進機構(IPA)が公表する「サイバーセキュリティお助け隊サービスリスト」に掲載されたサービスの利用料が対象という、目的の限定された枠です。

通常枠の補助額と「プロセス数」

通常枠では、導入するソフトウェアが業務のいくつの工程をカバーするか(プロセス数)によって申請できる補助額が変わります。

補助金額 必要なプロセス数 補助率
5万円〜150万円未満 1プロセス以上 1/2以内
150万円〜450万円以下 4プロセス以上 1/2以内

プロセスは公募要領の「業種・プロセス一覧」で定義されており、汎用的なものから業種別のものまで区分されています。150万円以上を申請する場合は、そのうち共通プロセスまたは汎用プロセスから4種類以上を含む必要があります。

補助率は原則1/2以内ですが、令和6年10月から令和7年9月までの間で、「当該期間における地域別最低賃金以上〜令和7年度改定の地域別最低賃金未満」で雇用している従業員が全従業員の30%以上である月が3か月以上ある場合は2/3以内に引き上げられます。最低賃金近傍の従業員を多く雇用している事業者への配慮です。この適用を受けるには、賃金状況報告シートの提出が必要です。

通常枠の対象経費は、ソフトウェア購入費、クラウド利用費(最大2年分)、導入関連費です。

対象になるITツールの範囲

補助対象となるITツールは3つの大分類に整理されています。

大分類 内容 補助対象となる期間・上限
I ソフトウェア ソフトウェア本体 月額・年額制(サブスクリプション等)は最大2年分
II オプション 機能拡張、データ連携ツール、セキュリティ 最大1年分
III 役務 導入コンサルティング、導入設定・マニュアル作成・導入研修、保守サポート 役務全体で200万円が上限。保守サポートはソフトウェアの利用範囲内で最大2年分

役務(導入支援やコンサルティング)だけを補助対象にすることはできません。 オプションや役務は、登録されたソフトウェアと対になっているものを導入する場合に限り申請できます。

導入コンサルティングは1回の交付申請につき1つのみ申請可能です。また、導入するITツールに対して役務費用が占める割合が著しく高額でないことが申請要件のひとつに挙げられています。

補助対象経費の一般的な考え方は補助金の対象経費とは?もご覧ください。

申請の前提として必要な準備

申請要件のうち、事前に時間がかかるものを挙げます。

  • GビズIDプライムの取得。電子申請の前提です
  • SECURITY ACTIONの宣言。IPAが実施する「SECURITY ACTION」の★(一つ星)または★★(二つ星)のいずれかを宣言している必要があります。この補助金特有の要件です
  • 事業場内最低賃金が地域別最低賃金以上であること(交付申請の直近月において)
  • 申請者自身が管理する携帯電話番号の登録。申請に必要なパスワード等がSMSで通知されるため、1申請者につき1つの番号が必要です

法人の場合は履歴事項全部証明書(発行から3カ月以内)、法人税の納税証明書(その1またはその2)、直近分の貸借対照表・損益計算書が必要です。個人事業主の場合は本人確認書類、所得税の納税証明書、確定申告書の控え、青色申告決算書または収支内訳書が必要になります。代替書類は一切認められません。

労働生産性と賃上げの要件

ここからは通常枠の要件です。枠によって扱いが異なり、たとえば複数者連携デジタル化・AI導入枠には賃上げ目標が設定されていません。他の枠で申請する場合は、その枠の公募要領で要件を確認してください。

通常枠では、交付申請時点の翌事業年度以降3年間の事業計画を作って実行することが求められます。

労働生産性の要件

  • 1年後に労働生産性を3%以上向上させること
  • 事業計画期間において労働生産性の年平均成長率を3%以上向上させること

過去にIT導入補助金2023の通常枠・デジタル化基盤導入枠(複数社連携IT導入類型)、またはIT導入補助金2024・2025の通常枠・複数社連携IT導入枠で交付決定を受けた事業者は、いずれも4%以上に引き上げられます。

労働生産性の計算式は「(営業利益+人件費+減価償却費)÷年間の事業者当たり総労働時間」です。

150万円を境に賃上げの扱いが変わります

ここが実務上もっとも重要な分岐点です。

補助金申請額 賃上げ目標の扱い
5万円〜150万円未満 加点項目(過去にIT導入補助金2022〜2025で交付決定を受けた事業者は必須要件)
150万円〜450万円以下 必須要件

150万円以上を申請する場合の必須要件は次のとおりです。

  • 1人当たり給与支給総額(非常勤を含む全従業員)の年平均成長率を3%以上とすること(過去にIT導入補助金2022〜2025で交付決定を受けた事業者は3.5%以上)
  • 事業場内最低賃金を地域別最低賃金+30円以上の水準にすること
  • 交付申請時点で、これらの賃金引上げ計画を従業員に表明していること

賃金引上げ計画を従業員に表明したと申告したにもかかわらず、交付決定後に実際には表明していないことが発覚した場合、事務局は交付決定の取消を行うとされています。

なお、150万円以上の申請要件を満たす場合でも、交付申請時に補助額を自主的に5万円以上150万円未満の範囲内とすることは可能です。賃上げの見通しが立たない場合、あえて150万円未満に抑えるという選択もあり得ます。

また、社会保険医療の給付等を行う保険医療機関・保険薬局、介護サービス事業者、社会福祉事業・更生保護事業を行う事業者、学校教育法に基づく学校等については、これらの賃上げ要件は適用外とされています。

未達の場合は返還を求められます

策定した賃金引上げ計画の目標が事業計画終了時点で達成できなかった場合(期間内に報告をしなかった場合を含む)、補助金の返還を求められます

  • 事業場内最低賃金の増加目標が未達の場合: 補助金額を3で除した額に、未達となった年以降の年数を乗じた額の返還。付加価値額増加率が年平均1.5%に達しない場合や天災など事業者の責めに帰さない理由がある場合は求めないとされています
  • 1人当たり給与支給総額の増加目標が未達の場合: 全部の返還を求める場合があります。付加価値額が増加しておらず、かつ企業全体として3年の事業計画期間の過半数が営業利益赤字の場合や天災等の場合は求めないとされています

ひとつ知っておきたいのは、この返還には加算金・延滞金が含まれないと公募要領に明記されている点です。返還額は補助金交付額を上限とするとされています。不正受給の場合に課される加算金とは扱いが異なります(不正受給のペナルティは補助金の不正受給とは?をご覧ください)。

スケジュール(4次締切分)

交付申請の募集は2026年3月30日に始まっており、締切が複数回設けられています。2026年8月時点で公表されている直近の日程は次のとおりです。

項目 日程
交付申請の締切 2026年8月25日(火)17:00
交付決定日 2026年10月7日(水)(予定)
事業実施期間 交付決定〜2027年3月31日(水)17:00(予定)
事業実績報告期限 2027年3月31日(水)17:00(予定)

これは通常枠・インボイス枠(両類型)・セキュリティ対策推進枠の4次締切分、複数者連携枠の2次締切分にあたります。5次以降の日程は順次公表される予定です。

締切時間を過ぎた場合、いかなる理由であっても受付は行われません。 締切直前は申請マイページへのアクセスが集中し、SMS認証などに通常より時間がかかる可能性があるとも案内されています。余裕を持った申請が必要です。

申請の流れ

  1. IT導入支援事業者とITツールを選定する(この時点では契約ではありません)
  2. GビズIDプライムを取得する
  3. IT導入支援事業者から「申請マイページ」に招待を受ける
  4. 申請マイページを開設し、申請者情報を入力する
  5. IT導入支援事業者が事業計画やITツール情報を入力する
  6. 申請者がITツール情報・事業計画を確認し、宣誓を行う
  7. 申請マイページから事務局へ交付申請を提出する
  8. 交付決定 → ITツールの契約・導入・支払い → 実績報告 → 補助金の交付
  9. 補助金交付後、効果報告を提出する

補助金は後払いです。交付決定前に契約・支払いをした経費は対象になりません。

なお、公募要領には申請マイページのログインIDとパスワードは、IT導入支援事業者を含む第三者に渡さないことが申請要件として明記されています。支援事業者と共同で申請する制度ですが、申請そのものは事業者自身が行う建前になっています。

申請前に知っておきたい注意点

  • 導入したいツールが登録されているかを最初に確認する。ITツール検索でAIの搭載有無を含む機能概要を確認できます
  • 対象外となるITツールが定められています。中古品、リース・レンタル契約のITツール(サイバーセキュリティお助け隊サービスを除く)、対外的に無償で提供されているもの、交付申請時に利用金額が定められないもの、料金体系が従量課金方式のもの、そして交付決定前に購入したITツールは対象になりません
  • 国や中小機構などの他の補助金と重複する事業は対象になりません。とくに省力化投資補助金は、同じ業務プロセスへの導入が重複と判断される場合があります。どちらで申請すべきかは省力化投資補助金とは?とあわせて検討してください
  • みなし同一法人では1社のみしか申請できません。親会社が議決権の50%超を持つ子会社がある場合などが該当します
  • 大企業が一定割合の株式を保有している事業者、直近過去3年分の課税所得の年平均額が15億円を超える事業者は対象外です
  • 宗教法人、法人格のない任意団体(同窓会・PTA・サークル等)、過去1年以内に労働関係法令違反により送検処分を受けた事業者なども対象外です

まとめ

デジタル化・AI導入補助金は、登録済みのITツールとIT導入支援事業者を選ぶことから始まるという点で、他の補助金と進め方が大きく違います。まずは導入したいツールが対象になっているかを確認しましょう。

そのうえで押さえておきたいのが、補助金額150万円を境に賃上げが加点項目から必須要件に変わるという分岐です。450万円まで狙えるからと安易に高額を申請すると、3年間の賃上げを約束することになり、未達の場合は返還を求められます。自社の賃金の見通しと照らして、申請額を決めることが大切です。

「どの枠で申請すべきか」「導入予定のツールが対象になるか」といった段階のご相談も歓迎です。お気軽にお問い合わせください。


出典(2026年8月10日確認)